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2という酵素がアセトアルデヒドを代謝する主要な酵素であるが、約半数の日本人はALDH2*2と命名された変異遺伝子をもっているためALDH2の酵素活性が欠損している。ALDH2*2遺伝子は、アジア人では高率に認められるが、白人や黒人では認められない10)。遺伝子は両親から1本ずつ受け継ぐため、正常型(正常/正常:ALDH24/24)、ヘテロの欠損型(正常/欠損:ALDH2*1/2*2)、ホモの欠損型(欠損/欠損:ALDH2*2/2*業2)の3種類の組合世がある。ヘテロとホモの欠損者では、飲酒後のアセトアルデヒドの最大血中濃度が、それぞれ正常者の6倍、19倍にもなる11)。ALDH2欠損者は少量の飲酒で顔がまっかになり、眠気や動悸などの不快感が生じ、飲酒家にはなりにくい。
しかし、ヘテロのALDH2欠損者では、習慣的に飲酒して訓練していると、アセトアルデヒドにからだが慣れてしまい、顔があかくなる反応が起きにくくなり、飲酒家になったり、なかには大酒家になる人もいる。下表は国立療養所久里浜病院アルコール症センターに入院したアルコール依存症患者のALDH2の遺伝子型を年代をおって比較したものである。1976年の入院患者のなかにはヘテロのALDH2欠損者は、わずかに2.5%しかいなかった。しかし、1986年には8%となり、1992年には13%に増加し、この15年余りで実に5倍にも増加してきた12)。これはアルコールの相対的な価格の低下や、自販機、コマーシャルを含めた販売における無節操さ、飲酒を強要したり酔っ払いに寛大すぎる日本の社会文化現象が影書しているのかもしれない。つまり、飲酒に対して遺伝的にハンディキャップのある人達のなかに、習慣的にたくさん飲むことを社会的に奨励され、鍛えて飲めるようになり、アルコール依存症にまでなる人が増えてきた可能性がある。

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しかし、ここからとんでもないことが起こり始めているのかもしれない。アセトアルデヒドは吸入させると実験動物の喉や肺に癌が発生し、実験動物では確実な発癌物質であることが証明されている13)。しかし、われわれの最近の研究が報告されるまで、ヒトに対する発癌性の証拠はなかった。
われわれは、ALDH2*1/2*2の遺伝子型によるヘテロのALDH2欠損が、日本人のアルコール依存症者ばかりでなく常習飲酒家における食道癌の強力な危険因子であることを最近発見した8)。われわれの患者の食道ヨード染色検診で、食道癌発見率が極端に高いことも、ヘテロのALDH2欠損者の存在により一部説明可能である。われわれは、アル

 

 

 

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